[Newsletter vol. 222]
特許庁は、令和7年3月27日、紳士服専門店「洋服の青山」を展開する青山商事株式会社が同事業において使用するサウンドロゴ(音商標)の自他識別力が争われた拒絶査定不服審判において、商標法3条1項6号に該当するとして登録を拒絶した審査官の査定を覆し、商標登録を認める審決を下しました。[不服2024-4056号審決]
本願商標
青山商事株式会社は、令和3年1月26日、「ようふくのあおやま(歌詞)」のサウンドロゴ(音商標)を、第14類「身飾品,時計」、第18類「かばん類,傘」、第25類「被服,ベルト,履物」、第35類「被服の小売等役務」他を指定して、特許庁に商標登録出願しました(商願2021-8269)。

審査官の判断
審査官は、『本願商標を構成する言語的要素の「ようふくのあおやま」は、「洋服の青山」の語を表してなるものであると容易に認識される。
ところで、洋服の製造又は販売に係る業務を営む者の店舗名に「洋服の〇〇」が用いられている実情があり、また、「青山」は、我が国においてありふれた氏のひとつである。よって、本願商標は、これに接する需要者が、洋服の製造又は販売に係る業務を営む者の類型的な店舗名に、ありふれた氏を用いたものと認識するにとどまる。文字商標である「洋服の青山」が商品又は役務の全区分について登録を受けているとしても、本願商標の構成は、文字商標が備える視覚的要素を欠くものであり、本願商標とは構成を異にする。そうすると、本願商標をその指定商品又は指定役務に使用しても、これに接する需要者は、商品・役務の広告等において流されるBGMに用いられる楽曲の一種として認識するにとどまるため、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない判断するのが相当であり、商標法3条1項6号に該当する。』として、令和5年12月7日、本願商標を拒絶しました。
これに対し、青山商事は、令和6年3月7日、特許庁に拒絶査定不服審判を請求しました。
特許庁の審決
- 本願商標は、2小節の五線譜で構成されるメロディー、1分当たりの拍数を164拍とする音の要素及び「ようふくのあおやま」という言語的要素(歌詞)からなる音商標であるところ、当該「ようふくのあおやま」の歌詞は、これに接する取引者、需要者に「洋服の青山」の語を無理なく自然に理解させるものといえる。
- 請求人は、「洋服の青山」の文字からなる登録商標の商標権者であり、1974年4月に紳士服専門「洋服の青山」西条店を開店して以降、請求人の業務に係る「洋服の青山」の店舗は2024年3月末には全国47都道府県全てにわたって685店舗にまで拡大し、これらの店舗には「洋服の青山」の巨大な看板や駐車場の案内板等が設置されている 。請求人の売上高(2024年3月期)は、1,936億87百万円(連結)であり、紳士服専門店業界No.1の販売実績であるとともに、国内アパレル業界の売上高ランキング3位である。そうすると、我が国の「被服」「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を中心とする商品及び役務との関係では、「洋服の青山」の文字からなる商標は、請求人の業務に係る商品及び役務を表示する商標として我が国において広く使用されているものといえる。
- 音の要素及び言語的要素(歌詞)を総合した本願商標は、「被服」「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を中心とする商品及び役務との関係において、少なくともSNSにおいて144個の使用が確認でき、これらの商標が各店舗において使用されていることなど、取引実情も併せ考慮すれば、我が国において請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして広く使用されているといい得るものである。
- 以上を踏まえて、音商標を構成する音の要素及び言語的要素(歌詞)を総合して、商標全体として考察し、判断するに、本願商標は2小節で構成されており、メロディーがあるとしても、十分な長さがある楽曲と認められるものではなく、僅か4秒にも満たない本願商標は、店舗の雰囲気作りのために流されるBGMに用いられる楽曲とはいい難いものである。
- 使用の実情を踏まえれば、本願商標はメロディーからなる音の要素に請求人の業務に係る商品及び役務を表示する「洋服の青山」という商標を称呼した「ようふくのあおやま」の言語的要素(歌詞)を加えたものであるというのが相当。
- してみれば、本願商標は、これに接する取引者、需要者に、ありふれた「洋服の製造・販売に係る青山という氏」の店舗の雰囲気づくりのために流されるBGMに用いられる楽曲を認識させるというよりは、請求人に係る商標「洋服の青山」を称呼した「ようふくのあおやま」という言語的要素(歌詞)を有する音商標と認識させるものであり、自他商品及び役務の識別標識としての機能を果たし得るものと認定、判断できる。
- したがって、本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
