知財高裁:館林市のマスコットキャラクターの愛称を著名とした特許庁の判断を取消

[Newsletter vol. 221]


知的財産高等裁判所は、令和7年3月12日、「ぽんちゃん」の文字商標について、群馬県館林市が観光事業に使用する著名なマスコットキャラクターを認識させるとして、商標法4条1項6号により登録を拒絶した特許庁の審決の妥当性が争われた審決取消訴訟において、同号の「著名なもの」には該当しないとして、原審決を取り消す判決を言い渡しました。

[知財高裁 令和6(行ケ)10090/第1部本多裁判長]

本願商標

 原告(個人)は、令和3年11月29日、「ぽんちゃん」の文字商標(標準文字)を、第9類「アニメーションを内容とする記録済み媒体及び動画ファイル」他、第16類「パスポートホルダー」他を指定商品として、特許庁に商標登録出願しました(商願2021-154842)。


特許庁の判断(拒絶審決)

 特許庁は、「ぽんちゃん」の文字は、群馬県館林市が観光事業に使用している著名なマスコットキャラクターの愛称である「ぽんちゃん」を認識させるものである。そうすると、本願商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標と認められ、商標法4条1項6号に該当するとして、令和6年9月3日、本願商標の登録を拒絶しました。

 原告は、特許庁の判断(不服2023-2913号審決)を不服として、令和6年10月1日、知財高裁に提訴しました。


商標法416

 商標法4条1項6号は、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」については、商標登録を受けることができないことを規定しています。


知財高裁の判断

  1. 商標法4条1項6号の趣旨は、同号に掲げる団体や事業を表示する標章は極めて多数にわたるために、対象となる標章を「著名なもの」と限定しているのであって、商標法上の他の規定と完全に整合的に解すべき必要まではないが、少なくとも「著名」の字義に反するような解釈をすることは相当でない。商標法4条1項6号にいう「著名なもの」というためには、同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当である。特定の地域でのみ知られている標章と同一又は類似する商標の登録を禁止すると、商標権を取得して全国的に当該商標を使用する権利を過度に制約することになりかねない。
  2. 引用キャラクター及びその愛称である「ぽんちゃん」は、館林市民にはなじみのあるキャラクターとして広く認識されていると認められ得るものの、館林市外への露出は散発的かつ限定的であり、群馬県の総人口約197万人に対して館林市の人口が8万人弱にとどまることからしても、群馬県及びその周辺において広く認識されていると認めるには至らない
  3. そうすると、引用標章は、館林市及び館林市観光協会による観光振興事業の地域性を考慮しても、相応の規模の地理的範囲において広く認識されているということはできないから、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」に当たらない
“「著名」の字義に反する解釈は相当でない”と言い切った裁判所の判断は、極めて妥当と思います。法律知識もさることながら、日本語の知識、正しい理解も大切であることを、改めて実感させられます。