知財高裁:共有者を欠いた商標ライセンス契約書に基づく、通常使用権の許諾は有効

[Newsletter vol. 220]


知的財産高等裁判所は、令和7年2月26日、商標権の共有者がライセンス契約の当事者でないことから、共有者の同意なく通常使用権は認められず、このため、商標の使用者が特定できないとして、不使用により本件商標の登録を取り消した特許庁の取消審決(原審決)の是非が争われた審決取消訴訟において、原審決を取り消す判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10061号、同第10062号、同第10063号/第1部本多裁判長]


本件商標

 米国法人ラッフルズプロパティーズインコーポレイテッド(以下、米国ラッフルズ社)と株式会社ラッフルズ(以下、ラッフルズ社)が共有する登録第4128317号商標「CONART/コナート」(第25類/本件商標1)、登録第4186486号商標「CONART」(第25類/本件商標2)、登録第5294162号商標「CONART(図形付)」(第18,25類/本件商標3)は、いずれも第25類「被服,洋服」他を指定商品として登録され、現在も有効に存続しています。


不使用取消審判

 アルビオン・ハドソン氏は、本件商標はいずれも、過去3年間、第25類指定商品において一度も使用されていないとして、令和3年12月2日、特許庁に対し、不使用取消審判を請求しました(取消2021-300962号、取消2021-300963号、取消2021-300965号)。 これに対し、本件商標権者は、第92回東京インターナショナルギフトショー秋2021において、通常使用権のA社が本件商標を使用したスウェットシャツを展示したことを示す証拠資料を提出しました。


棄却審決(特許庁の判断)

 特許庁は、ラッフルズ社とA社の間で締結された「ライセンス契約書」について、その作成日に米国ラッフルズ社CEOが、同契約内容を把握していたとすると、共有者である米国ラッフルズ社のCEOは、ラッフルズ社の代表取締役と連名で当該契約を締結することが可能であったと判断し得る。そうすると、ラッフルズ社は、A社に通常使用権の許諾をすることについて、共有者である米国ラッフルズ社の同意を得ているとはいえず、商標法35条で準用する特許法73条3項により、当該ライセンス契約は、商標権者が、本件商標の使用をA社に許諾したものとは認められないとして、令和6年2月26日、本件商標の登録を取消す審決を下しました。これに対し、米国ラッフルズ社(原告)は、同年7月3日、原審決の取消しを求める訴えを知財高裁に提起しました。


知財高裁の判断 

 知財高裁は、以下のように述べ、通常使用権者であるA社が指定商品について本件商標を使用しており、原審決の判断は誤りであるとして、原審決を取り消しました

  • ラッフルズ社とA社とのライセンス契約には、「A社に対し、米国法人である原告がその日本における商標権、著作権及び商品化権を有し、原告の委託を受けて管理する標章を、A社が商品に使用することを、場所は日本国内、対象商品はアパレルウェアとして非独占的に許諾する。」との文言があり、原告が日本における商標権の管理をラッフルズ社に委託し、委託に基づき契約する旨が明示され、原告代表者らの陳述書にもそれに沿う記載がある。また、ライセンス契約に係るロイヤリティーと認められる金額が期間化権料として、決算書に計上された上で、原告宛てに海外送金されている。
  • 以上によると、原告は、前記ライセンス契約を締結した際、同ライセンスの供与を許諾していたものと認められ、ラッフルズ社は、本件商標権の共有者の同意を得て、A社に対し通常使用権の許諾をしていたものと優に認められる。ライセンス契約において、契約当事者になっていないとの一事をもって、原告の同意があるとはいえないと評価することはできない。
  • ライセンス契約に本件商標の全てが対象として挙がっていないとしても、ライセンス許諾対象の標章として、本件商標3の登録番号と楕円状の赤枠内に「CONART」の文字を含むロゴが記載されている。原告らが使用許諾するに当たり、「CONART」やその日本語読みの「コナート」の文字を含む商標を使用することも想定されているものといえ、同じく「CONART」のブランドに関連する商標でありながら、一部の商標のみに限定して許諾を与え、一部は許諾をしないとすることは通常考え難い。したがって、単に契約書上、本件商標全ての記載がないとしても、原告らは、A社に対して本件商標の使用を許諾していたと認められる。
  • パンフレットの各商品イラストの上部に記載された「CONART LOGO」について、外観及び観念上、「CONART」部分を分離観察可能であり、当該表示は、本件商標1及び2と社会通念上同一であるといえる。
複数事業者で商標権を共有する場合、共有者全員の同意がなければ、特許法73条3項により、他人にライセンス許諾が出来ません。本件は、ライセンス契約書に共有者全員が署名していなかったことが、裁判の要因となりました。契約書の記載に関係なく、共有者の意思や内容を汲み取った裁判所の判断は妥当と言えますが、曖昧な契約書は火種になりかねず、実務上、注意が必要です。