[Newsletter vol. 217]
東京地方裁判所は、令和7年1月14日、米国法人LegalForce RAPC Worldwide, Professional Corporation による「legalforce.jp」ドメイン名の取得、及び、契約書レビューサービスの提供における使用等が、原告・株式会社LegalOn Technologiesの登録商標「LegalForce」を侵害し、不正競争防止行為に該当するかが争われた商標権侵害行為等差止請求訴訟において、日本に存在しない架空の住所を記載して「legalforce.jp」ドメイン名を取得したことをもって不正競争防止法第2条第1項第19号には違反しないとして原告の請求を棄却し、その他の請求については、日本の裁判所が管轄権を有しないとして却下する判決を言い渡しました。
[東京地裁 令和7年(ワ)第70022号/民事第46部 髙橋裁判長]
米国法人による「legalforce.jp」ドメイン名の取得
被告である米国法人LegalForce RAPC Worldwide, Professional Corporation は、2008年1月1日に米国カリフォルニア州において設立され、原告(旧名称:株式会社LegalForce)が設立される2017年4月21日より前に、「LegalForce」の文字を含む米国商標権を取得し、米国での法律業務を提供。また、「legalforce.jp」ドメイン(本件ドメイン)を使用する権利を2009年に取得し、インターネットブラウザ上に本件ドメインを入力すると、被告のlegalforcelawウェブサイトに自動的に接続(リダイレクト)されるよう設定。
裁判における主な争点
- 日本国内に事務所又は営業所を有さない被告による、リダイレクト先の被告ウェブサイトにおける契約書レビューサービスの提供行為に対し、日本の裁判所が管轄権を有するか。
- 日本国内に事務所又は営業所を有さない被告による「legalforce.jp」ドメインの取得は、不正競争防止法第2条第1項第19号の「不正の目的を得る目的で、又は他人に損害を加える目的」に該当するか。
東京地裁の判断
<争点1.>
本件被告ウェブサイトにおける「AIに基づく契約書及び電子メールアカウントのレビュー」について、日本国内の利用者にサービスを提供していることを示す証拠は見当たらないところ、①本件被告ウェブサイトは全て英語で記載されている、②本件被告ウェブサイトに掲載された価格表には、米国ドルでの価格が表示されており、円での価格は表示されていない、③本件被告ウェブサイトには、被告に対する問合せ先として、メールアドレスとともに米国の住所及び電話番号が記載されており、日本の住所又は電話番号は記載されていない、④本件被告ウェブサイトには、日本語で作成された契約書又は日本法を準拠法とする契約書に関するレビューサービスについての記載はない、⑤本件被告ウェブサイトのサーバは米国に所在する、⑥被告は、「Legal Force」の文字を含む標章を付した役務の提供を日本において申し出る計画を有していないことが認められることを考慮すれば、本件被告ウェブサイトを日本において閲覧することができたことを踏まえても、本件被告ウェブサイトにおける被告標章(被告表示)の表示が、日本の需要者を対象としたものであるということはできず、これによって、原告の権利利益が日本国内で侵害され、又は侵害されるおそれがあり、また、原告の権利利益について日本国内で損害が生じたということはできない。
したがって、日本の裁判所が管轄権を有しないというべきである。
<争点2.>
「.jp」は日本を表す国別ドメイン名であり、本件ドメインの登録及び管理はドメイン名登録機関である株式会社日本レジストリサービスによって行われ、同社の本店所在地は日本国内にあることが認められる。不競法2条1項19号の「ドメイン名を使用する権利」とは、ドメイン名登録機関に対してドメイン名の使用を請求する権利をいうものと解されるところ、日本国内に所在するドメイン名登録機関が本件ドメインの登録及び管理をしていることに照らせば、被告は本件ドメインを使用する権利の保有を日本国内で行っているというべきである。被告はインターネットブラウザ上に本件ドメインを入力すると、legalforcelawウェブサイトに自動的に接続されるように設定していることも照らせば、被告が本件ドメインを使用することによって、原告の特定商品等表示に係る権利利益が日本国内で侵害されるおそれがあるということができる。したがって、民訴法3条の3第8号に基づき、日本の裁判所が管轄権を有すると認めることができる。
しかしながら、被告は、原告が「Legal Force」の使用を開始する前から本件ドメインを使用する権利を保有するとともに、「Legal Force」の名称を用いて米国での法律業務を行っていたものといえ、本件ドメインを使用する権利を取得するに当たり、「長崎県100 Hamilton Avenue, Suite 160, Palo Alto」との不正確な住所を登録したことをもって、不正の利益を得る目的及び他人に損害を加える目的があると認めることはできない。