知財高裁:「新生甘酒」は、商品「甘酒」の品質表示に該当、商標登録を認めず

[Newsletter vol. 216]


知的財産高等裁判所は、令和6年12月19日、標準文字で書された商標「新生甘酒」(商願2020-75627)が第30類「甘酒、他」との関係において自他商品識別力を有するか争われた拒絶審決取消訴訟において、商標法3条1項3号の「商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するとして、原告旭酒造株式会社の訴えを退ける判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10038号/第3部中平裁判長]


本願商標

 「獺祭」で有名な旭酒造株式会社(以下、旭酒造)は、令和2年6月18日、標準文字からなる商標「新生甘酒」を、第30類「甘酒,甘酒のもと,甘酒を使用した菓子及びパン,甘酒を加味した茶,甘酒を加味したコーヒー及びココア,甘酒を加味したアイスクリームのもと,甘酒を加味したシャーベットのもと,甘酒入りの穀物の加工品,甘酒入りの調味料」を指定して、特許庁に出願しました(商願2020-75627。以下、本願商標)。

https://www.asahishuzo.ne.jp/product/DEX/dex-amazake.html

 しかしながら、特許庁での審査において、「本願商標をその指定商品「甘酒」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「新しく製造した生甘酒」ほどの意味合いを認識するにとどまる。本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる」として、商標法3条1項3号により拒絶されたことから、これを不服として審判を請求しました(不服2022-2257)。


拒絶審決(特許庁の判断)

 特許庁審判官は、令和6年3月14日、原査定を支持し、以下のとおり、本願商標は商標法3条1項3号に該当すると判断しました。

本願商標の構成中、「生甘酒」の文字について、本願の指定商品である「甘酒」を取り扱う業界では、加熱処理をしていない状態の甘酒を「生甘酒」のように称し、一般に販売されている事実が存在する。そして、構成中の「」の文字は、「あたらしいこと。あたらしくすること。」「今年の新たな収穫・製造」等の意味を有する一般に慣れ親しまれた語であり、本願の指定商品を含む飲食料品を取り扱う業界では、一般にその年に収穫されたものや、作られたものについて、「新酒」、「新茶」、「新米」、「新ジャガ」のように、「新」の文字に商品名やその略称を付けて「新○○」と指称されていること、また、現在ある商品「○○」について、これまでのものとは異なる新しいものが出た場合に「新○○」のように指称されている事実があることが見受けられる。

 そうすると、本願商標は、「新」の文字と「生甘酒」の文字を結合してなるものと容易に認識させるものであるから、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、その商品が「今年作られた生甘酒」、「これまでのものと異なる新しい生甘酒」、「今年作られた生甘酒を使用したもの」、「これまでのものと異なる新しい生甘酒を使用したもの」という、商品の品質を表示したものと認識、理解するにすぎない。

 したがって、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。

 旭酒造は、令和6年4月22日、本件拒絶審決の取消しを求めて、知財高裁に提訴しました。


知財高裁の判断

 旭酒造は、『本願商標は「新生」と「甘酒」からなる結合商標であり、需要者等に「新」の文字と「生甘酒」の文字を結合してなるものと認識させるものではない』、『需要者等は、本願商標に接した際、「新」と「生甘酒」に分離して観察し認識することはない』、『原告は「新生獺祭」の商標権を有し、かつ、商品のシリーズ名として「新生」の語を冠して使用していることからして、本願商標は「新生」というシリーズ名の「甘酒」と認識するのが自然』等と主張しました。


 しかしながら、知財高裁は、以下のように述べ、原審決を支持する判断を下しました。

  1. 本願商標に接した需要者等は、本願商標について、「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせた商標であると理解する場合と、「新」の文字と「生甘酒」の文字を組み合わせた商標であると理解する場合と、いずれもあり得るといえ、需要者等がどちらか一方の理解のみしかしないとは認められない。
  2. 「生甘酒」の語が指し示す内容が「加熱処理せずに製造した甘酒」であることからすると、これに「あたらしいこと」、「あたらしくすること」、「今年の新たな収穫・製造」を意味する「新」の文字を組み合わせることが考え難いとはいえない
  3. 原告が「新生」シリーズと称する商品を販売しているとしても、本願の指定商品の需要者等の間で、「新生」の語が、原告の販売する商品の表示として広く認識されているとは認められないから、需要者等が本願商標を「新」の文字と「生甘酒」の文字を結合させた商標であると認識しないとはいえない。
  4. 「新生獺祭」と「新生甘酒」が同じ事業者によって製造販売されていると当然に需要者等が認識するとはいえず、「獺祭」あるいは「新生獺祭」の商標が自他識別力を有することによって本願商標にも自他識別力が認められることにはならない
  5. 現時点において「新生甘酒」という語自体の使用例が原告によるもの以外に見出せないとしても、そのことの故に、本願商標について、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標への該当性が否定されることはない。
「新生甘酒」の語は、「新生」と「甘酒」の結合、それとも、「新」と「生甘酒」の組み合わせか。裁判所は、商標の構成文字(漢字)の意味、取引の実情、また、日本語の用法としての両語の組み合わせの親和性も考慮した上で、本願指定商品の需要者であれば両方とも認識し得るとし、それぞれの場合について本願商標の識別力を検討・評価しており、妥当な判断かと思われます。