[Newsletter vol. 213]
知的財産高等裁判所は、令和6年10月31日、タブレットに文字情報等を入力する際に用いるタッチペン(スタイラスペン)における商標「ZOOM」の使用が、第9類「電子計算機」との関係において、商標登録第4363622号の不使用に該当するかが争われた取消審決取消訴訟において、タッチペン及びその尾栓は、「電子計算機」に含まれる周辺機器には該当しないとして、特許庁の取消審決を支持する判決を言い渡しました。[知財高裁 令和6年(行ケ)第10045号/第3部中平裁判長]
本件商標
原告、株式会社トンボ鉛筆は、登録第4363622号商標「ZOOM」(以下、本件商標)の商標権者であるところ、本件商標に係る指定商品(一部)は、書換登録により、以下のとおり変更されました。
[設定登録時] 旧第11類 電気機械器具(電池を除く),電子計算機〔中央処理装置及びその周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープを含む)〕,電子式卓上計算機,電気材料
[書換登録後] 第9類 電気磁気測定器,電極,電子計算機,電子計算機用プログラム,電子式卓上計算機
原告は、下掲の商品(尾栓にタッチペンを付した多機能ペン、尾栓替え部品。以下、原告使用商品)に、本件商標を付して販売していました。
被告、有限会社パームは、令和3年2月10日、本件商標の第9類指定商品「電子計算機,電子計算機用プログラム,電子式卓上計算機」(以下、対象指定商品)に対して不使用取消審判を請求したところ(審判番号:取消2021-300089号)、特許庁は、本年3月28日、『原告使用商品は、第16類「筆記具(文房具)」の範疇に属する商品と判断するのが相当である』として、対象指定商品における本件商標の登録を取り消す旨の審決を下しました。
なお、審決の翌日、対象指定商品のうち、第9類「電子計算機用プログラム」に係る本件商標権は、米国法人ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ・インク(以下、ズーム社)に分割譲渡されました。
トンボ鉛筆及びズーム社は、本年5月2日、本件商標に対する不使用取消審決を不服として、審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁の判断
知財高裁は、本件の争点を、1.書換後の対象指定商品「電子計算機」に含まれる周辺機器の範囲、2.電子計算機の周辺機器と原告使用商品の関係と捉え、書換登録制度を紐解きつつ、次のように述べ、本件商標を対象指定商品に使用したとは認められない、と判断しました。
争点1.書換後の対象指定商品「電子計算機」に含まれる周辺機器の範囲
•対象指定商品は、省令別表第九類十六の「(一)電子応用機械器具」中の商品「電子計算機」を意味するものと解されるところ、(一)の中には他の商品として、「ハードディスクユニット」が記載されている。
•「商品及び役務の区分解説[国際分類第9版対応]」には、第9類十六の「電子応用機械器具及びその部品」につき、「この概念には、電子の作用を応用したもので、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけが含まれる。」とした上で、「電子計算機には、電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープその他の周辺機器)等のハードウェアが含まれる。」と記載されている。
•そうすると、対象指定商品の「電子計算機」は、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むものであり、その「電子計算機」に含まれる周辺機器も、中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみがこれに当たり、ハードディスクユニット等の電子計算機外部の周辺機器はこれに当たらない。
争点2.電子計算機の周辺機器と原告使用商品との関係
•原告使用商品は、人の指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むとする「電子計算機」に含まれるものとは解しがたい。
•補助記憶装置であるハードディスクユニット等の電子計算機外部の周辺機器ですら含まれないと解されることからすれば、電子計算機の中央処理装置及び電子計算機用プログラムの記憶とは何ら関係しない多機能ペンである原告使用商品は、電子計算機に含まれる周辺機器に当たるものとも解しがたい。
•書換ガイドラインの一覧表に記載されているのは「電子計算機」であって、「電子計算機〔中央処理装置及びその周辺機器(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープを含む)〕」と同一でないから、原告の行った書換は、必ずしも書換ガイドラインの一覧表に示された通りの書換を行ったものとはいえない。