[Newsletter vol. 211]
知的財産高等裁判所は、令和6年10月30日、大ヒット映画「シン・ゴジラ」のメイン・キャラクターの立体的形状の自他識別力が争われた裁判において、原告(東宝株式会社)の主張を認め、被告(特許庁長官)の反論に対し、『ゴジラ・キャラクターの圧倒的な認知度の前では些末な問題にすぎず』として、特許庁の拒絶審決を取り消す判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10047号/第4部宮坂裁判長]「シン・ゴジラ」立体商標
東宝株式会社は、令和2年9月29日、出願分割により、第28類商品「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」を指定して、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形態)の立体的形状からなる下掲の商標(立体商標)を、特許庁に出願しました[商願2020-120003]。
これに対し、特許庁審査官及び審判官は、本願商標を上記指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、その商品の特徴や品質として採択され得る商品の立体的形状の一類型であると認識するにとどまり、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものと判断するため、商標法第3条第1項第3号に該当する。
また、2016年に「シン・ゴジラ」というタイトルの映画が公開され、同年の実写邦画ランキング1位としても、本願商標の使用した商品の販売期間は、永年とはいえず、販売実績の規模が、本願の指定商品を取り扱う業界においてどの程度のものであるのか多寡を確認することができず、当該商品の販売実績は、出願人又は他の複数の事業者による出荷総個数であること等を踏まえ、需要者の間に広く認識されるに至っていると認めることはできず、商標法第3条第2項の要件を具備しないとして、本願商標の登録を拒絶しました[不服2021-11555号審決]。
東宝株式会社は、令和6年5月10日、特許庁の判断を不服として、本件審決の取消しを求め、知財高裁に提訴しました。
知財高裁の判断
知財高裁は、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するとした本件審決の判断に誤りはないものの、以下の理由により、同条2項の適用を否定した判断は誤りであり、本件審決は取消しを免れないと判断しました。
•原告は、昭和29年から令和5年までの69年間に、映画「ゴジラ」シリーズ30作品を日本において製作・配給し、そこに登場するキャラクター「ゴジラ」は、少しずつ形状を変えているものの、その基本的な形状はほぼ踏襲され、体形、顔・頭部等の特徴は、同種の怪獣キャラクターの中でも際立った特色となっている。
•映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ・キャラクターは、劇中で数段階の形態変化を遂げているところ、本願商標は、そのメイン・キャラクターというべき第4形態の立体的形状を表したものであり、本件特徴を全て備える点を含め、それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状として広く認識されていたことが優に認められる。
•シン・ゴジラの立体的形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとおり、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべき。
•映画「シン・ゴジラ」は、観客動員数569万人、興行収入82.5億円(同年の実写邦画部門第1位、日本映画歴代22位)という記録的な大ヒットとなり、同年の流行語大賞候補にも「シン・ゴジラ」がノミネート。シン・ゴジラの立体的形状をかたどったキャラクター商品(本願商標に係る使用商品)は、原告自身又は原告からライセンスを受けた複数の企業により販売され、平成28年から令和6年までの売上数量及び売上額(上代ベース)は、それぞれ約102万個、約26億5000万円。
•令和3年9月2日から同月3日にかけて、調査対象エリアを全国、調査対象を15歳~69歳の男女に設定した上で、有効回収規模1000サンプルとして実施されたアンケートによれば、自由回答において、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と答えた者が64.4%に及び、特に男性では70.8%と、極めて高い認知度が示された。この調査の対象者の選定、質問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。
以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができる。