[Newsletter vol. 210]
知的財産高等裁判所は、令和6年9月25日、株式会社Nozが「Choice Kids」「Choice Baby」の名称で販売する子供用椅子の形状が、ノルウェー国法人オプスヴィック社が著作権を有し、ストッケ社が製造販売する子供用椅子「TRIPP TRAPP」との関係で、不正競争防止法に抵触し、著作権を侵害するかが争われた控訴審において、「TRIPP TRAPP」の特徴ある形態の商品等表示性及び周知性を認めつつも、両形態の非類似性及び著作物非該当性を理由に、原審(東京地裁)の判決を支持する判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和5年(ネ)第10111号/第2部清水裁判長、原審・東京地裁令和3年(ワ)第31529号]
控訴人製品「TRIPP TRAPP」
子供用椅子「TRIPP TRAPP」は、昭和47年にノルウェーにて販売が開始され、世界累計販売台数は1400万台に上っており、日本においても、昭和49年頃から輸入販売され、平成2年度から令和2年度までに約110万台以上も販売されています。
「TRIPP TRAPP」の立体形状は、第20類指定商品「乳幼児用・子供用椅子」において使用による特別顕著性が認定され、今年1月12日に商標登録されました(登録第6769295号)。
知財高裁の判断
知財高裁は、以下のように述べ、原審の判決は相当であるとして、本件控訴をいずれも棄却しました。
1.不正競争防止法に基づく請求
①「商品等表示」該当性及び「周知著名性」
控訴人製品は、特徴① 左右一対の側木の2 本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点、特徴② 左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L 字型の形状を形成している点、及び、特徴③側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点、を不可分に結合させた上、側木と脚木を一直線とするデザインを採用したことにより、他の製品にはみられない洗練されたシンプルでシャープな印象を与え、商品等表示該当性が認められることになったものと判断する。
したがって、控訴人製品の本件顕著な特徴(特徴①乃至③)は、被控訴人各製品が販売されるようになった遅くとも平成27年8月10日時点で、控訴人らの業務に係る商品を表示するものとして「周知」となっていたと認めるのが相当。
②商品形態の類否
本件顕著な特徴を有する控訴人製品全体の形態が控訴人らの商品等表示に該当すると認められるところ、被控訴人各製品は、控訴人製品のデッドコピーではないから、被控訴人が控訴人らの商品等表示と同一の商品等表示を使用したということはできない。被控訴人各製品の形態においては、曲線的な要素とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定性が特徴的となっており、その印象も、控訴人製品における、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。よって、控訴人製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被控訴人各製品は、これを備えていないものと認められる。したがって、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるものということはできない。よって、控訴人らの商品等表示と被控訴人各製品の形態が類似すると認めることはできない。
2.著作権法に基づく請求
①著作物性の有無
控訴人製品のような実用品の形状等に係る創作を我が国内においてどのように保護すべきかは、我が国の著作権法と意匠法のそれぞれの目的、性質、各権利内容等に照らし、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図るという見地から検討する必要がある。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。これらの点を考慮すると、控訴人製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。
本件顕著な特徴(特徴①乃至③)は、高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴であり、これらの特徴により全体として実現されているのは椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、控訴人製品の椅子としての機能から分離することが困難であり、本件顕著な特徴を備えた控訴人製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、控訴人製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。