知財高裁:商標「遠隔シャンパン」は、国際信義に反するため、商標法4条1項7号により登録拒絶

[Newsletter vol. 209]


 知的財産高等裁判所は、令和6年9月11日、日本の法人による文字商標「遠隔シャンパン」(以下、本願商標)の第9類における出願は、商標法第4条第1項第7号に該当するとして登録を拒絶した特許庁の審決(不服2022-17185号)の適否が争われた審決取消訴訟において、特許庁の審決を認める判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10030号/第2部清水裁判長]


本願商標

 エンカクジャパン株式会社は、標準文字で書された「遠隔シャンパン」の文字商標を、第9, 35, 42類の商品及び役務を指定して、2021年12月27日、特許庁に商標登録出願しました(商願2021-162042)。

(出典 https://champal.jp/)


出願人は、その後、指定商品・役務を第9類「シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのコンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するための電子計算機用プログラム」に補正しました。


拒絶審決

 特許庁審査官は、本願商標構成中の「シャンパン」の文字は、「フランス国のシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、我が国の一般需要者の間に広く知られており、著名な「シャンパン」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあるとして、商標法第4条第1項第7号により、本願商標の登録を拒絶しました。出願人は、これを不服として審判を請求(不服2022-17185号)しましたが、令和6年2月28日、特許庁は拒絶査定を支持する審決(本件審決)をしたことから、本年3月29日、本件審決の取消を求め、知財高裁に提訴しました。


知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように述べ、本件審決の判断を取り消す事由がないとして、出願人の請求を棄却しました。 

1.「シャンパン」は、「フランスのシャンパーニュ地方原産の発泡性ぶどう酒」を意味し、フランスの「原産地統制名称法」に基づき定められた、生産地域、製法、生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてのみ使用できる原産地統制名称として、長年にわたり、厳格な品質管理がなされるとともに、同国内外における名称の保護が図られており、我が国においても、「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字をその構成に含む商標の登録に対し、登録異議や無効審判を申し立て、実際に多数の商標の登録が取消又は無効とされるに至っている。そのほか、フランスは、国際的な貿易交渉において、同様の産地表示制限の厳格化を求めるなどしている。

その結果、「シャンパン」の表示及び表示が示す発泡性ぶどう酒については、世界的に高い名声、信用、評判が形成され、フランス及び同国民の文化的所産というべきものとなっており、我が国においても、本願商標の指定商品の取引者、需要者のみならず、一般国民の間に広く知られ、多大な顧客吸引力が備わっている。

2.本件商標は、「遠隔シャンパン」の文字を標準文字で表してなるところ、「遠隔シャンパン」の語は、広く一般的に認識されているとは認めるに足りず、「遠くへだたっていること」等を意味する「遠隔」と「シャンパン」を組み合わせた造語であると認識される。そして、「シャンパン」の語が有する著名性と多大な顧客吸引力を考慮すると、本件商標からは、「エンカクシャンパン」の称呼とともに、「シャンパン」の称呼及び、著名で多大な顧客吸引力を有する「シャンパン」の観念が生ずると認められる。

3.以上を総合考慮すると、「シャンパン」の文字を含む本願商標をその指定商品に使用することについて我が国の商標法上の保護を与えるときは、著名な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせることを許容する結果となるおそれがあるのであって、国を挙げて「シャンパン」の表示の保護に努めているフランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであるから、国際信義に反するものといわざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法417号に該当する

4.原告は、「シャンパン」の文字を含む登録商標がなお存在し、フランスの関係機関等からの無効審判請求等がない時点において、国際信義に反すると評価することは、抽象的な危険を理由に私人の事業活動を著しく制限するものとなり、産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反すると主張する。しかし、現時点で「シャンパン」の文字を含む登録商標がほかに存在することや、(商標登録前であるから当然であるが)本願商標についてフランスの関係機関等から未だ登録異議の申立てや、無効審判請求等がなされていないことによって左右されるものではないから、原告の主張は採用することができない。

商標実務の世界では周知の事実ですが、「シャンパン」は一般名称ではありません。一般名称は「スパークリングワイン」。「シャンパン」と呼べるのは、シャンパーニュ地方産の発泡性葡萄酒のみ。知財高裁の判断からしますと、既に登録されている「シャンパン」の文字を含む登録商標は、全て無効事由に該当することになり得ます(商標法46条1項6号及び47条1項)。
なお、「遠隔シャンパン」は商標法4条1項7号(公序良俗)違反により拒絶されましたが、文字商標「シャンパる」について、特許庁は同号に該当しないとして、出願人による登録を認めています。