[Newsletter vol. 208]
特許庁は、先願商標「TRILITH STUDIOS」と後願商標「TRILITH」との類似性が争われた登録無効審判において、マークスが代理を務める米国法人Trilith IP Holdings, LLCの主張を認め、商標非類似とした異議決定の判断を覆し、両商標は類似するとして、商標法第8条第1項違反により、後願商標「TRILITH」の登録を一部無効とする審決を下しました。[審判番号:無効2022-890066号]
先願商標「TRILITH STUDIOS」
米国法人Trilith IP Holdings, LLCは、マドプロ国際登録第1534597号を用いて、商標「TRILITH STUDIOS」(標準文字)を、第9類商品「downloadable video gamesoftware; recorded video game software」(ダウンロード可能なビデオゲームソフトウエア,記録済みビデオゲーム機用ゲームソフトウェア)他を指定して、日本の特許庁に商標登録出願しました(国際登録日:2020年2月28日)。
商標「TRILITH STUDIOS」は、米国アトランタに建設した巨大レクリエーション施設や撮影スタジオ、又はそのエリアの名称として使用されており、特許庁での審査を経て、2022年1月21日に国内登録されました。
後願商標「TRILITH」
2021年1月5日、株式会社GAIAMONDは、商標「TRILITH」(標準文字)を、第28類指定商品「ゲーム用トレーディングカード,おもちゃ」他において出願し(商願2021-745)、早期審査を申し出たところ、特許庁は、同年3月15日に登録査定を送達し、同月31日に設定登録されました(商標登録第6371496号)。
異議決定
米国法人Trilith IP Holdings, LLCは、2021年6月18日、後願商標「TRILITH」は先願商標「TRILITH STUDIOS」と類似し、商標法第8条第1項の異議理由に該当するとして、登録異議申立てを行いましたが、特許庁は、2022年4月7日、『後願商標と先願商標は、その全体の構成において、構成文字数及び「STUDIOS」の文字の有無の差異により、外観上、明確に区別し得るものである。次に、後願商標から生じる「トライリス」又は「トリリス」の称呼と先願商標から生じる「トライリススタジオズ」又は「トリリススタジオズ」の称呼とは、「トライリス」又は「トリリス」の音を共通にするとしても、その構成音数及び後半部における「スタジオズ」の音の有無という明らかな差異を有するものであるから、両称呼は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。さらに、両商標からは、いずれも特定の観念は生じないものであるから、観念において比較することはできない。以上よりすれば、後願商標と先願商標とは、観念において比較できないとしても、外観において、明確に区別し得るものであり、称呼において明瞭に聴別し得るものであるから、両商標の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である』として、後願商標の登録を維持する決定をしました(異議2021-900241号決定)。
当該決定を不服として、Trilith IP Holdings, LLCは、2022年8月10日、マークスを代理人として、商標登録無効審判を請求しました。
無効審決
特許庁は、以下のように述べ、後願商標「TRILITH」は、商標法第8条第1項の規定に違反して登録されたものであるとして、第28類指定商品「ゲーム用トレーディングカード,おもちゃ」における後願商標の登録を無効としました。
- 請求に係る指定商品と引用商品に含まれる家庭用ビデオゲームソフトウェア、記録済み家庭用ビデオゲーム機用ゲームソフトウェアは、商品の目的、販売場所、需要者等において共通性を有するため、類似の商品であると認められる
- 先願商標は、「TRILITH」と「STUDIOS」の文字の間には一文字程度の空白があり、「STUDIOS」の文字は、「[しばしば複数形で] 映画撮影所,スタジオ.」の意味(研究社 新英和中辞典)を有する語として、あるいは、「(画家・カメラマンなどの)仕事場、アトリエ、スタジオ。(ラジオ・テレビの)放送室、録音室。(音楽の)録音室、レコーディングスタジオ。映画撮影所。」を意味する「STUDIO」の複数形を表す英語として、一般的によく知られた英語であるから、先願商標は、「TRILITH」と「STUDIOS」の語からなるものと容易に理解される。そして、ゲームに係る商品を制作する場所(仕事場)を「Game Studio(s)」「GAME STUDIO」「ゲームスタジオ」と称している実情があることからすれば、「スタジオ」の意味又は「スタジオ」の複数形を意味する「STUDIOS」の文字は、引用商品との関係では、出所識別標識としての機能は強いものとはいい難い。これに対し、「TRILITH」の文字は、特定の意味を有しない造語であるから、引用商品との関係において識別力が強いものといえ、自他商品の識別標識としての機能を強く果たす部分(要部)は「TRILITH」の文字部分にあるといえる。そうすると、先願商標からは全体の構成文字に相応して「トライリススタジオズ」「トリリススタジオズ」の称呼を生じるが、要部「TRILITH」から生じる「トライリス」又は「トリリス」のみの称呼も生じ得るといえる。
- 後願商標と先願商標の要部とを比較すると、両商標は、外観において、「TRILITH」の綴りを共通にするものであるから近似した印象を与えるものである。そして、称呼については、両者は「トライリス」又は「トリリス」の称呼を同じくするものであり、観念については、両者はいずれも特定の観念が生じないから比較することはできない。そうすると、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、後願商標と先願商標とは、観念においては比較することができないとしても、外観において近似した印象を与え、称呼を共通にすることからすれば、互いに紛れるおそれのある類似のものと判断するのが相当である。してみれば、後願商標と先願商標とは、類似の商標というべきである。