知財高裁:雑誌「Jimny Fan」は、スズキの人気車「Jimny」と商標非類似&混同のおそれなし

[Newsletter vol. 207]


知的財産高等裁判所は、令和6年8月5日、第16類指定商品「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」における文字商標「Jimny Fan/ジムニーファン」(以下、本願商標)は、スズキ社の人気オフロード車の名称「Jimny」に係る先行登録商標と類似し、出所混同のおそれがあるとして、本願商標の登録を拒絶した特許庁の審決(不服2023-12344号)の是非が争われた審決取消訴訟において、特許庁の審決を取り消す判決を言い渡しました。
[知財高裁令和6年(行ケ)第10007号/第4部宮坂裁判長]


本願商標

 エスエスシー出版有限会社は、欧文字「Jimny Fan」と「ジムニーファン」の片仮名を二段に書してなる本願商標を、第16類商品「印刷物」を指定して、2023年1月17日、特許庁に商標登録出願しました(商願2023-3854)。

出願人は、その後、指定商品を第16類「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に補正しました。


拒絶審決(スズキの人気オフロード車「JIMNY」)

 特許庁審査官は、本願商標は、スズキ社の所有に係る登録第6214256号商標「Jimny」及び第6623643号商標「JIMNY/ジムニー」(Jimny商標)と類似し、また、本願商標が本願指定商品に使用された場合、同社のオフロード車の名称として広く認識されているJimny商標との間で出所混同を生ずるおそれがあるとして、商標法4条1項11号及び15号により、本願商標の登録を拒絶しました。

出願人は、これを不服として審判を請求(不服2023-12344号)しましたが、令和5年12月26日、特許庁は拒絶査定を支持する審決(本件審決)をしたことから、本年2月5日、本件審決の取消を求め、知財高裁に提訴しました。


知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように述べ、本件審決の判断には誤りがあるとして、本件審決を取り消しました。 

1.商標法4111

Jimny商標は、スズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られジムニーにはカスタマイズ市場というべき特異なマーケットが成立している。

当該マーケットを意識した情報雑誌が以前から存在し、本願商標を付した出願人発行に係る雑誌(以下、本件雑誌)は、特に販売実績がある。本件雑誌の表紙には、引用商標と同じ字体を用いた「Jimny Fan」の題名と、「大好きなジムニーだから/オンリーワンに仕上げたい/そんなヒントが溢れる一冊!!」というキャッチコピーが大書されており、本文は、ジムニーの改造車を取り扱うショップ及び取扱商品の紹介、個人オーナーに係るジムニー改造車の紹介も含まれ、裏表紙には、スズキ社提供のジムニーの全面広告が掲載されている。本件雑誌に限らず、本件指定商品の発行主体は、いずれも、スズキ社その他の自動車メーカー又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者であり、近い将来そのような情報雑誌の発行を予定しているといった事実もない。スズキ社は、広告料を支払って本件雑誌にジムニーの広告を掲載し、本件雑誌を購入するなどして、本件雑誌の発行を援助している。このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い

2.商標4115

以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立たない「棲み分け」が成立していると認められる。

以上によれば、本願商標を本願指定商品に使用したとしても、スズキ社のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められないというべきである。

情報雑誌(メディア)が取り扱うコンテンツに係る有名商標と、当該有名商標を含むメディアの名称(結合商標)との類否に関する本件事案において、発行主体の可能性に着目して「出所識別標識」の該当性を否定した本件判決に違和感を覚えざるを得ません。本件雑誌のコンテンツがスズキ社のジムニーに関するものでなければ需要者に誤認が生じることは明らかですので、コンテンツに由来する名称を使用した自動車雑誌が多数取引されている実情を勘案しますと、発行主体の可能性のみで有名商標の出所表示性を否定し、無関係の第三者による商標登録を認めることは、有名商標に化体した業務上の信用の保護だけでなく、需要者の利益にも反するように思われます。有名商標の保護と結合商標の類否という二大実務課題について、一石を投じる判決といえます。