[Newsletter vol. 202]
知的財産高等裁判所は、令和6年5月16日、人気ラーメンチェーン「AFURI」と日本酒「雨降」との商標の類否、及び、出所混同のおそれが争われた審決取消訴訟において、両商標は非類似であり、出所混同のおそれはないとして、特許庁の判断(無効2022-890068号審決)を支持し、原告AFURI社の訴えを退ける判決を言い渡しました。
[知財高裁令和5年(行ケ)第10122号/第1部本多裁判長]
本件商標
本件商標は、「雨降」の漢字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるところ、吉川醸造株式会社が、2021年1月27日、第33類商品「清酒,日本酒,焼酎」他を指定して、特許庁に出願され、同年6月30日に商標登録(第6409633号)されました。
吉川醸造は、大正元年の創業以来、雨降山(あふりやま:丹沢大山の別名)の地下伏流水を使用した酒造りを行っており、「雨降(AFURI)」は、丹沢大山の硬水で醸した日本酒の新ブランドとして、同年発売されました。
引用商標
引用商標は、「AFURI」の欧文字を書してなるところ、AFURI株式会社が、2019年4月24日、第33類商品「清酒,日本酒,焼酎」他を指定して、特許庁に出願され、2020年4月14日に商標登録(第6245408号)されました。
AFURI株式会社は、ラーメン店「らーめん阿夫利(AFURI)」を、首都圏を中心に16店舗展開しており、「AFURI」の名前は、神奈川県丹沢山系の東端に位置する大山(通称・阿夫利山)の麓で得られる清らかな水をスープの仕込み水に用いたことに由来。平成27年3月から日清食品との間でカップラーメンの共同開発を行い、現在まで定期的に販売。
知財高裁の判断
知財高裁は、以下ように述べ、「雨降」と「AFURI」とは商標非類似であり、また、原告のラーメン店「AFURI」が周知著名であるとまで認めるに足りず、原告との間で出所混同を生ずるおそれはないとして、原告の請求を棄却しました。
- 本件商標と引用商標とを比較すると、外観においては、両者は、文字の種類が漢字と欧文字とで異なり、本件商標が筆文字風であることや右上方から左斜め下へ書してなるのに対し、引用商標は左から右に横書きしたものであって、外観は明らかに異なっている。また、称呼においては、本件商標が「アメフリ」、「ウコー」の称呼を生じるのに対し、引用商標はそれらの称呼は生じず、「アフリ」の称呼が生じるものである。「雨降」の文字から「アフリ」の称呼が生じるとは直ちに言えないものの、「雨降山」を「アメフリヤマ」と称呼する場合が多いものが、「アフリヤマ」と称呼する場合があることも踏まえると、「雨降」から「アフリ」の称呼が生じないとはいえず、その場合本件商標と引用商標の称呼が同じとみる余地もある。観念においては、本件商標は「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り」といった観念が生じるのに対し、引用商標は同様の観念は生じず、特定の観念を生じるものではない。そうすると、本件商標と引用商標は、外観において相違し、観念においても相違するものであって、称呼において共通となる余地があるとしても、外観及び観念の相違は称呼の共通性による印象を凌駕するものといえる。
- 商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではなく、当該商標が現に指定商品に使用されて「アフリ」と呼称されているとの原告主張に係る被告の取引の実情は、現時点において被告が商標を実際に使用している具体的な商品についての取引の実情にすぎないから、本件商標と引用商標の類否の判断に当たり考慮すべき一般的、恒常的な取引の実情とはいえない。
- 本件商標と引用商標は、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象等を総合し、かつ、その商品又は役務に係る取引の実情を考慮しても、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとまではいえず、互いに類似するものとは認められない。したがって、本件商標は、その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標である引用商標と類似するものとはいえず、商標法4条1項11号に該当しない。
- 「ラーメンの提供」について「AFURI」の使用商標が東京都及びその周辺のラーメンの取引者及び需要者に知られたものと言い得るとしても、我が国に多数存在するラーメン店舗との比較では、原告店舗は国内では首都圏を中心に16店舗にとどまっていること、宣伝広告やメディアへの露出等によって周知著名と言い得る程度に使用商標が知られていることを示す証拠があるとは言えないことからすると、使用商標が周知著名であるとまで認めるに足りない。「日本酒等の酒類」と「ラーメンの提供」の需要者が一定程度重なる部分があるとしても、両者に密接な関連性があり需要者の相当部分が共通するとも認め難い。以上の事情に照らせば、本件商標を「日本酒等の酒類」に使用するときは、その取引者及び需要者において、原告と緊密な関係のある営業主の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとはいえない。