特許庁:ペインティングで文字の底部を隠した「CUGGL」は「GUCCI」と誤認混同のおそれなし

[Newsletter vol. 158]

 特許庁は、令和4年7月12日、ペインティングで文字の底部を隠した態様の文字商標「CUGGL」(商標登録第6384970号。以下、本件商標)が、著名なファッションブランド「GUCCI」との間で出所混同のおそれが認められるかが争われた商標異議申立事件において、グッチ社の申立てを退け、本件商標の登録を維持する決定を下しました。[異議2021-9002484決定]


本件商標

 日本人K氏は、2020年10月6日、下掲の構成からなる商標を第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴,帽子」を指定商品として、特許庁に出願しました(商願2020-129322)。特許庁は、翌年5月6日に本件商標の登録を認め、5月25日に商標公報に掲載されました。


異議申立

 イタリア人ファッションデザイナー「Gucci o Gucci」を創始者とするイタリア国法人グッチオ グッチ ソチエタ ペル アツィオーニは、2021年7月26日、本件商標に対して異議申立を行い、「GUCCI」は世界に約500直営店を持ち、2020年度の売上高約9,449億円、我が国においては、青山・銀座・新宿・大阪の旗艦店を始め、北海道から九州まで全国に97店舗を展開し、Instagramのフォロワー約4,600万人、facebookのフォロワー約2,000万人、Twitterのフォロワー約650万人等、その人気は著しく、特に、婦人服、紳士服、バッグ、シューズ、ジュエリー、眼鏡、腕時計等のファッション製品(以下「申立人商品」)において、世界で最も成功しているブランドの一つといえる。

 本件商標は、「CUGGL」の欧文字の下に、該欧文字の底部の一部が隠れるようにピンク色のペンキが塗られ、各文字の全体の形状がはっきり視認できない。「C」と「G」の文字は、視覚上近似した形状の文字であるところ、ペンキ部分によって、各文字の底部が目隠しされた結果、「C」と「G」の文字がより一層区別しにくくなっている。「L」の文字も、ペンキで目隠しされているため、「I」の文字に見える。本件商標の欧文字部分は「GUCCI」とそのフォントや文字の配置バランス等の態様において酷似するものであり、底部を同程度に目隠ししたロゴとでは、文字の形状が酷似し、外観上相紛らわしいものであることは一見して明らか。したがって本件商標の指定商品の需要者が時と所を異にして両商標に接した場合、外観上酷似した印象を与えるものであり、両者を混同することは避けられず、少なくとも両者を関連付けて認識することは明らか。

[image credit] https://parodys.thebase.in/

 本件商標権者が運営するオンラインショップ「parodys」において、本件商標のペンキ部分の割合を著しく増やした態様のロゴを胸部に大きく表したTシャツが販売されており、これに触れた需要者は、「GUCCI」の文字がペンキで隠されているロゴと認識し、申立人を想起、連想し、申立人のコラボレーションに係る商品と誤認される可能性が高い、と主張しました。


特許庁の判断

 特許庁は、以下のように述べ、本件商標が指定商品に使用されても、取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない、と結論付けました。

  1. 申立人商標「GUCCI」は、1922年ごろ、イタリアのフィレンツェで、「Guccio Gucci」によって創業され、現在では、申立人商品を取り扱う世界的に著名な商標であり、我が国においても、本件商標の登録出願の日前から申立人の業務に係る商品を表すものとして著名なものであって、その状況は現在も継続していると認められる。
  2. 本件商標の構成中の欧文字が「C, U, G, G, L」の文字で構成されていることは容易に認識し得る。構成中の図形は、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないため、特定の称呼及び観念は生じない。さらに、「CUGGL」の欧文字は、辞書等に載録されている語ではなく、かつ、当該文字が、本件商標の指定商品との関係において、商品の品質あるいは特定の意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情も見い出せない。よって、本件商標は、その構成中の「CUGGL」の欧文字に相応して「シーユージージーエル」の称呼を生じ、特定の観念は生じない
  3. 引用商標は、「GUCCI」の欧文字からなり、当該文字は、申立人の業務に係る商品を表すものとして広く認識され、「グッチ」の称呼及び「著名なブランドのGUCCI」の観念が生じる
  4. 本件商標と引用商標とは、図形の有無において明らかに相違し、「CUGGL」の欧文字と「GUCCI」の欧文字とは、そのつづりが明らかに異なることから、外観上、相紛れるおそれはない。本件商標から生じる「シーユージージーエル」の称呼と、引用商標から生じる「グッチ」の称呼とは、構成音及びその音数が明らかに相違するため、それぞれを一連に称呼した場合は、その語調語感が相違し、称呼上、互いに紛れるおそれはない本件商標は、特定の観念を想起させないのに対し、引用商標は「著名なブランドのGUCCI」の観念が生じるものことから、観念において紛れるおそれはない
  5. 引用商標は、申立人商品を取り扱う世界的に著名な商標であり、我が国においても、本件商標の登録出願日前から申立人商品を表すものとして著名なものであって、その状況は現在も継続しており、本件商標の指定商品と申立人商品は、その性質、用途、目的において関連し、また、取引者及び需要者においても共通するものと認められるものの、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、互いに紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきであるから、その類似性の程度は低いものである。
  6. したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号には該当しない。