特許庁:ルブタン赤色靴底(レッドソール)の単色商標について、使用による出所機能を認めず

[Newsletter vol. 154]

 特許庁は、令和4年6月7日、クリスチャン・ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)の女性用ハイヒールの定番デザイン「赤色の靴底(レッドソール)」に係る色商標(以下、本願商標)が出所識別機能を有するかが争われた審判で、靴底を赤色に彩色した靴が、多数の事業者により製造、販売されている取引の実情において、本願商標の登録を認めることは、公益上(独占適応性)の観点から支障があるとして、本願商標を拒絶する判断を下しました。[不服2019-14379号審決]


本願商標 <ハイヒール靴底の赤単色商標>

 本願商標は、下掲の構成からなり、第25類「女性用ハイヒール」を指定商品として、色彩のみからなる商標(色商標)の登録制度が開始された平成27年4月1日に、特許庁に出願されました。

「商標の詳細な説明」には『女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色(PANTONE 18-1663TP)で構成される』と記載されています(商願2015-29921)。

 これに対し、特許庁審査官は、『商品に使用される色彩は、商品の魅力向上等のために選択されるものであり、本願商標の指定商品を取り扱う業界において、本願商標の赤色を女性用ハイヒール靴の靴底部分の位置に付したものが製造販売されている実情がある。』ことを理由に、本願商標は、女性用ハイヒールに通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまり、商品の特徴を普通に用いられる方法で表示した商標に該当するとして、令和元年7月29日、商標法第3条第1項第3号により拒絶しました。

 また、『高級ブランド「クリスチャン・ルブタン」の商品が「レッドソール」であるとの認識はある程度浸透しており、芸能人、セレブ、海外ブランドを好む富裕層を中心とした一部の需要者においては、「レッドソールといえばクリスチャン・ルブタン」との認識があることが推認できる。』としつつも、類似する商品が本願商標の出願時から現在に至るまで流通しており、それなりの需要者がこれらの類似する商品を購入していることから、『一般の需要者はこれらの類似する商品も含めた女性用ハイヒール靴の靴底部分に付されている赤色の色彩から特定の者(請求人)を認識しているとはいい難い』として、本願商標は、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っておらず、第3条第2項の要件を具備しないため、拒絶査定としました。


 ルブタンは、令和元年10月29日、拒絶査定不服審判を請求し、日本における1996年からの使用実績に加え、東京都、大阪府及び愛知県に居住する20歳から50歳の女性(3,149名)を対象に行ったアンケート調査結果を提出し、靴底が赤いハイヒール靴を販売しているファッションブランドがあることを知っていた者又はそのようなハイヒール靴を見たことがある者に対して、想起するブランド名を自由回答形式で、回答できない者には選択式でブランド名を尋ねたところ、回答者の43.35%が自由回答形式でルブタンを想起し、選択式回答を合わせると53.99%であったことから、本願商標は、ルブタンの出所標識として機能していると主張しました。


特許庁審判官の判断

 審判官は、以下のように述べ、ルブタンのレッドソールは自他商品識別力を有しておらず、また、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることはできない、と結論付けました。

  1. 赤色は、商取引全般、特にファッション分野において、商品やその包装、広告等を彩色するために広く、好んで採択、使用されており、色彩としてはありふれたものである。
  2. 多数の事業者によって靴底を赤色に彩色した靴が製造、販売されている実情があるから、靴底の位置を赤色に彩色することは、商品の美感を向上させる目的で、取引上普通に採択、使用されているデザイン手法といえる。
  3. 商標法第3条第1項第3号に該当する単一の色彩のみからなる商標が同条第2項に当たるというためには、当該商標が使用をされた結果、特定の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり、さらに、同条第1項第3号の趣旨に鑑みると、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要すると解するのが相当である(令和元年(行ケ)第10146号、令和2年8月19日知財高裁判決)
  4. ルブタンの店舗が所在する東京、名古屋、大阪の在住者であっても、本願商標から、ルブタンを認知できる女性は50%に満たない程度であって、残りの半数以上は本件ブランドとの関係を想起できていない。そうすると、本願商標は、我が国の需要者の間において広く認識されるに至っているとまでは認められない。
  5. 本願商標と同様の特徴を備える、靴底を赤色に彩色した商品(靴)が、多数の事業者により製造、販売されている取引の実情があることを踏まえると、本願商標のような単一の色彩のみからなる商標(靴底、赤色)について特定人に排他独占的な使用を認めることは、商品の美感を向上させるために自由に使用が認められていた色彩(赤色)について、第三者による使用を不当に制限する結果にもなるから、公益上(独占適応性)の観点から支障がある
  6. 本願商標から請求人や本件ブランドとの関係性を想起できる者であっても、それと同様の特徴(靴底、赤色)を備える商品が多数流通している取引市場の中では、ブランド名や商品名に依拠せずに、本願商標に係る特徴(色彩、位置)のみで商品の出所を識別することは事実上困難である。
ルブタンが単色商標の登録第1号に挑みましたが、厳しい結果となりました。商標法第3条第2項の要件として公益上(独占適応性)の観点が持ち出されることに疑問を感じますが、色商標に特有の事情と思われます。業界の実情に適したアンケート調査や指定商品の記載等、実務的には示唆に富む事案といえます。ルブタンの今後の動向に注目です。