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2020.1.31「英国のEU離脱(Brexit)」:移行期間経過後のイギリスでのEUTM商標の保護

イギリスが、2020年1月31日午後11時(日本時間:2月1日午前8時)に欧州連合(EU)から正式に離脱しました。
これに伴い、移行期間が終わる「2020年12月31日」をもって、欧州連合商標権(EUTM)、及び、EU指定により登録されたマドプロ国際登録は、イギリスでの効力を失うこととなります。

英国政府は、一昨日、移行期間経過後のイギリスにおけるEUTM商標の保護について、ウェブサイトに公表しました。

  1. 2021年1月1日より、英国特許庁(UKIPO)は、EUTMに相当する英国商標権(Comparable UK trademark mark。以下、新商標権)を創設する。
    • EUTMの出願日やシニオリティも継承され、法的効力は英国内商標権と同一。EUTMの取消・譲渡等の影響はなし。
    • 新商標権の取得に係る権利者の費用負担は、原則なし。なお、登録証は発行されない。
  2. 新商標権は、2021年1月1日以前にEUTMで登録されたものに限る。その日までに未登録のEUTM商標を英国で登録するには、9カ月以内に、英国に商標出願を行う必要がある。これにより、EUTMの出願日・シニオリティが確保されるが、出願人は通常の出願料金を支払う必要がある。
  3. EUTMで認められた優先日やシニオリティは、新商標権において英国内で効力を有し、自動的にUKIPOに登録される。先行の英国内商標権・マドプロ国際登録(英国指定)に基づいてシニオリティを主張したEUTMについても、同様。
  4. 2021年1月1日時点で取消・無効審判が係属中のEUTMについては、英国法において当該取消・無効理由の適用が認められる場合には、EUTMが取消・無効されてしまうと、新商標権にもその効果が及ぶ。
  5. 英国法においては、登録商標を継続して5年間不使用であれば取消理由となるが、新商標権については、2021年1月1日より以前のEU域内(英国外)での使用によって取消を免れ得る。ただし、2021年1月1日以降は英国外での使用は考慮されない。商標の有名性の評価(Assessment of reputation)に関わる使用についても、同様とする。
  6. EUTMの権利者で、英国での新商標権を必要としない場合、2021年1月1日以降に、UKIPOに対して所定の辞退申請(Opt-out request)手続を行う必要がある。その場合、利害関係者への事前通知が必要となる。
  7. 通常の商標権と新商標権とを区別するために、新商標権の登録番号はEUTMの8桁の番号に「UK009」を付加したものになる予定(例.EUTM:00000977、新商標権:UK00900000977)。
  8. 新商標権の更新には、UKIPOに所定の更新登録料を支払う必要がある。新商標権の更新日は、EUTM更新日と同じ。現行の英国商標法では、UKIPOは更新日の6カ月前に商標権者に通知することになっており、新商標権も同様に通知する。
  9. 2021年1月1日から6カ月以内に更新日を迎える新商標権の扱いについては、法改正で対応する。その場合、新商標権が更新日を過ぎて消滅したことを権利者に通知し、その受領日から6カ月以内に通常の更新料を支払えば(追納不要)、新商標権が更新できることとする。なお、2021年1月1日以後に更新日を迎えるEUTMを2021年1月1日より前にEUIPOに支払ったとしても、英国での新商標権には効力は及ばない(UKIPOへの更新登録料の支払いが必要)。
  10. 2021年1月1日以前に期間満了により消滅したEUTMについては、EUTMが満了日経過後6カ月以内に権利者が追納して更新すれば、新商標権も自動的に更新されたものと扱う(UKIPOへの更新登録料の支払いは不要)。
  11. EUTMとして登録された証明商標(Certification mark)団体商標(Collective mark)についても、2021年1月1日以降、これに相当する英国商標権を創設する。
  12. EUTMに対して設定登録されたライセンス・担保権(security interest)については、2021年1月1日以降も、英国において継続して効力を有する。英国法では登録自体を要求していないものの、6カ月以内に登録した権利については特別の保護規定を設けており、EUTMに相当する新商標権に対するライセンス・担保権の登録期間を延長し、「2021年1月1日から12カ月」までとする。
  13. 2021年1月1日以前に譲渡されたがEUIPOに登録されていないEUTMについては、新商標権は譲渡人(assignor)に認められることとし、2021年1月1日以後、譲渡人又は譲受人が、譲受人の名義で新商標権を登録申請する権利を有する。
  14. 2021年1月1日の時点で英国裁判所に係属中のEUTMに関する事件は、英国がEUの加盟国であると仮定して審理される。ただし、英国裁判所の判決の拘束力は、新商標権にしか及ばない。EUTMに基づく英国内での商標権侵害訴訟は、2021年1月1日以降は、新商標権に基づく権利行使と解釈される。
  15. 2021年1月1日以後にEUTM登録が回復(Reinstatement)した場合、英国での新商標権は自動的に認められない。EUTM権利者は、回復後6カ月以内に、UKIPOに申請する必要がある。
  16. 2021年1月1日より前に申請したEUTM出願が当該日以降に回復した場合、EUTM出願が回復した日から9カ月以内に英国商標出願をすれば、EUTMの出願日又は優先日を主張することができる。
  17. EUTM制度における国内出願への「変換(Conversion)」手続は、2021年1月1日以降も英国法において導入する。EUTM出願が拒絶又は取り下げられてから3カ月以内に英国商標出願をすれば、EUTMの出願日・優先日の利益を享受することができる。 ●

英国政府が公表したデータによると、移行期間経過後に創設される新商標権の予想件数は約140万件とのことです。 ●

<出典:Guidance EU trademark protection and comparable UK trademarks, Published 30 January 2020>