知財高裁(日本):「ホームズくん」商標裁判、名探偵ホームズの観念は誰のもの?

[Newsletter vol.123]

知的財産高等裁判所は、令和3年2月22日、文字商標「ホームズくん」(商願2019-69010。以下、本件商標)と「ホームズ君」の文字等をその構成中に含む先行登録商標(商標登録第51259359号。以下、引用商標)との類似性(商標法第4条第1項第11号)が争われた裁判で、両商標は類似するとの特許庁の判断を支持する判決を言い渡し、原告(株式会社LIFULL)の訴えを退けました。
[令和2年(行ケ)第10088号 審決取消請求事件、第3部:鶴岡裁判長]

 原告が、本件商標「ホームズくん」を第9,35,41,42類の商品・役務を指定して出願したところ、特許庁は、本件商標は、引用商標と類似し、また、本件指定役務は、引用商標に係る第35,41類の指定役務と同一又は類似するとして、商標法第4条第1項第11号により、本件商標の登録を拒絶しました。
 原告は、拒絶査定不服審判を請求しましたが(不服2020-1579)、特許庁は請求不成立の審決を下したため、令和2年7月22日、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を申し立て、以下のとおり主張しました。

  • 本件商標は、平成9年以来、テレビCM、雑誌広告などにおいて、原告の企業イメージキャラクターとして使用されており、原告の不動産総合ポータルサイト「LIFULL HOME‘S」は、物件掲載数第1位として、我が国で最も取引者・需要者に閲覧されている。原告キャラクターは、同サイト上のイメージキャラクターとしての確固たる地位を築いており、「ホームズくん」は原告キャラクターの愛称として、原告による各種不動産情報の提供の役務を表示するものとして、我が国の取引者・需要者の間で周知性・著名性を獲得している。このため、本件商標からは「原告イメージキャラクターとして採用する(愛称としての)ホームズくん」との観念を想起・把握する。
  • 引用商標は、「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分及び引用図形部分という複数の構成要素が不可分一体的に表されている。「ホームズ君」部分は出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではなく,「耐震フォーラム」部分及び引用図形部分が出所識別標識としての機能を果たさないとみるべき特別な事情も見当たらない。

これに対し、知財高裁は、以下のように判断しました。

  1. 「ホームズくん」は,家に関連する語ではなく,個人名「ホームズ」に親しみを込めて「君」を付した語であると理解するのが自然である。そうすると,本願商標は,全体として,著名な名探偵「ホームズ」に親しみを込めて言及した語であると認識されるとみるのが相当である。したがって,本願商標からは,「ホームズクン」の称呼を生ずるほか,近しい存在の名探偵ホームズといった観念を生じるものと理解すべきである。
  2. 引用商標権者も,引用商標やそれに類似した標章,「ホームズ君」という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において,「ホームズくん」といえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成立するに至っているとまで認めることはできない。
  3. 引用商標は,外観上,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているものではない。また,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分,引用図形部分の三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだけの根拠を見出すこともできない。したがって,引用商標は,各構成部分を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないから,各部分を分離して観察することも許される。
  4. 「ホームズ君」の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務の出所識別標識としての機能を十分に果たし得るものであるといえること等の事情に照らしてみると,「ホームズ君」部分を,引用商標の要部として抽出することは十分に可能である
企業のイメージキャラクターを商標登録しても、「愛称」の商標登録は忘れがちではないでしょうか。「LIFULL HOME’S」サイトには愛称「ホームズくん」も目立つように表示されており、本件判決の事業への影響が気になります。 私見ですが、本件事案における裁判所の類似認定には、些か疑問を感じます。先行商標が文字や図形等からなる場合、安易に要部認定を行うことは「一商標一出願の原則」が蔑ろになりかねず、さらなるガイドラインが必要と思います。

コロナ禍関連商品の区分情報

特許庁は、最新の商品・役務名情報として、コロナ禍関連商品ついて、公表いたしました。

第5類携帯用衛生マスク専用ケース
第9類保護フェイスマスク(医療用を除く)、飛沫防止用フェイスシールド(医療用を除く)
第11類業務用スタンド型消毒液自動噴霧式手指消毒器
第18類携帯用衛生マスク及び小物入れケース、置き型の革製衛生マスク収納ケース
第20類消毒液ボトル置き用スタンド、置き型の木製又はプラスチック製の衛生マスク収納ケース、他
第21類接触感染防止用のボタン押下補助用スティック、接触感染防止用のつり革把持補助具、他