Newsletter vol.108をリリースしました。

[日本]知財高裁:単色からなる色商標の登録性に関する判例

知的財産高等裁判所は、6月23日、単色(オレンジ色)からなる色商標の登録性(特別顕著性)が争われた裁判において、原告(日立建機株式会社)の主張を退け、オレンジ色商標の登録を認めない旨の判決を言い渡しました。
[令和元年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件]

商標法改正により、2015年4月から、音・色・位置・動き・ホログラムといった「新しい商標」の登録制度が始まり、日立建機株式会社は、同月1日にオレンジ色のみからなる商標(本願商標)を、第7類指定商品「油圧ショベル」他において、商標登録出願しました(商願2015-29999)。

これに対し、特許庁は、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当し、同条2項(特別顕著性)に該当しないとして拒絶したため(不服2017-2498号審決)、日立建機株式会社は、当該審決の取消を求め、知的財産高等裁判所に提訴しました。

原告は、遅くとも昭和49年以降、同社の油圧ショベル等の建設機械の外面の全体又は一部に、本願商標の色彩を現在まで継続して使用。油圧ショベルは、主に5社(原告、株式会社小松製作所、コベルコ建機株式会社、キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社)が製造販売しており、昭和49年から平成30年までの間の原告の油圧ショベルのシェアは概ね20%。10台以上油圧ショベルを保有する全国502か所の建設業界の事業者を対象に実施したアンケートで、本願商標の色彩の画像を見せた上で「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えください」との質問に対し、有効回答数193件(回収率38.6%)のうち、185件が原告と回答(認知率95.9%)したこと等を根拠に、本願商標のオレンジ色が付された油圧ショベルを目にした需要者は、日立建機の商品と認識すると主張しましたが、裁判所は、以下のように述べ、商標法3条2項により商標登録が認められるべきものではないと判断しました。

  1. 輪郭のない単一の色彩それ自体が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかを判断するに当たっては,指定商品を提供する事業者に対して,色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるという公益にも配慮すべき。
  2. 本願商標の色彩であるオレンジ色(赤みを帯びた黄色)は、JISの色彩規格に慣用色名としてオレンジ色が挙げられる等、ありふれた色であり、類似した色彩である橙(マンセル値:5YR 6.5/14)は、人への危害及び財物への損害を与える事故防止などを目的として公表されているJIS安全色にも採用され、ヘルメット・ガードフェンス・特殊車両・現場作業着等に利用されていることから、建設工事の現場では一般的に使用される色彩である。
  3. 原告の販売する油圧ショベルの多くには、アーム部や車体等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されており、カタログにも原告の社名や「HITACHI」又は「日立」の文字の記載があり、本願商標が単色でなく他の色彩と組み合わせて車体の一部にのみ使用されている商品も少なくないことに照らせば、本願商標の色彩は、これらの文字や色彩と合わせて原告の商品である油圧ショベルを表示している。
  4. アンケートの質問方法は、本願商標が出所識別標識と認識されることを前提とするものであるから、その回答によって、本願商標が原告のみの出所識別標識と認識されていることを示しているのか、単に原告の油圧ショベルの車体色と認識するにとどまるのかを区別することはできない。
  5. 原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベルを長期間にわたり相当程度販売していたとしても、油圧ショベルと需要者が共通する建設機械や、油圧ショベルの用途とされる農機、林業用機械の分野において、車体色としてオレンジ色を採用する事業者が原告以外にも相当数存在しており、原告が,他者の使用を排除して,油圧ショベルについて本願商標の色彩を独占的に使用していたとまでは認められない。
  6. 建設機械は、製品の機能や信頼性を重視し、メーカーを確認して製品の選択が行われ、価格も安価なものではないことから、製品を識別し購入する際に、車体色の色彩が果たす役割が大きいとはいえない

判決全文は、こちらをご覧ください。

これまでに「543件」の色商標が出願されましたが、登録は僅かに8件(登録率1.5%)という狭き門となっており、しかも、登録されたものは全て「色の組み合わせ」で、「単色」の登録は未だ「0件」というのが現状です。単色商標に関する裁判例は、今回で2件目(1件目:知財高裁令和1行ケ)10119)ですが、いずれも、登録性(識別力、特別顕著性)が否定されており、色の独占につながる単色商標登録のハードルは相当高いものと言わざるを得ません。